誰が救われるのだろうか

説教要旨（6月26日朝礼拝より）
ルカによる福音書 18:18-30
牧師 藤盛勇紀

　「善い先生、何をすれば永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか」。この率直な問いに対するイエス様のお答えは、「なぜ、わたしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない」。議員は誠実で真剣ですが、彼の問いは「何をすればよいか」です。永遠の命は、自分が「何かをする」ことによって得るものだと思い込んでいる。それがこの人の大きな誤解です。「善い先生」であるこのお方が永遠の命に至る方法を教えてくれる、この先生から教えられたことを「自ら実行して命を得る」と、彼は考えていたのです。
　イエス様は彼の思いを見通して、十戒の言葉を示されます。彼は即答できました。「そういうことはみな、子供の時から守ってきました」。立派なものです。人間が神の律法を完全に守ることができると考えている点でも、彼は思い違いをしています。
　しかし、彼の本当の問題はそこではありません。問題は、律法を守ってきた自分の実績や経験、それを言い切れることです。「ではその上に何を積み上げたら永遠の命が得られましょうか」という思い自体が問題なのです。彼の関心はあくまで「自分のすること」。命を得るのに十分なものをいかに積み上げ、最後に何で仕上げるか。人の努力と英知で神の高みに届こうこうとするバベルの塔さながらです。
　しかしイエス様は、問題の核心に触れて言われます。「あなたに欠けているものがまだ一つある」。その一事は何か。「持っている物をすべて売り払い、貧しい人々に分けてやりなさい。そうすれば天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい」です。財産を否定することでも、貧しい人への慈善でもありません。主が求めておられることは、一つ。「わたしに従いなさい」です。そのために、この議員にとっては、彼の財産がその妨げになっていたのです。
　主に従うことは、ある意味「無一物」になることです。「主よ、ただあなたが私の生きる根拠、土台です」と。もし主に従っていなければ、倒れてしまう。財産や人が支えになっているということがあるとしても、主が支えて下さるのでなければ、命を得ているとは言えない。そういう関係です。
　私たちも案外「これがなければ」という土台を持っています。救いに関してさえ、「何をすればよいのか」と考えがちです。「地位や財産や学歴や名誉など、空しいものだ」と言うのは簡単。「自分の努力で救われることはない」と頭では分かっている。しかし、そのように生きること、つまり生活の土台を手放すことは不可能だと思っていないでしょうか。まさに、「らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」。聞いていた人々は、「それでは、だれが救われるのだろうか」とざわめきました。その時、主は言われます。「人間にはできないことも、神にはできる」。
　人間が自分の力で神の国に入る、などということはできない、しかし神にはできる。人が神の国に入るのは人間の業ではない。神がなしてくださる御業なのだ、と言われるのです。永遠の命を受け、神の国に入ることは、神の賜物、恵みとして与えられるのです。神こそ、そのような善きお方。この信頼が、ただ一つのことです。
　「人にできることは何か」と探求するのは、神の愛も憐れみも知らないからです。人間の不可能を、なしてくださる。救いようのない人間、滅んで当然の人間ために死ぬ。それが私たちの神、私たちの主です。
　「神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子供を捨てた者はだれでも、この世ではその何倍もの報いを受ける」。主に従って自由になる者は、失うのでなく、何倍も豊かにされます。主は私たちを愛してやまないお方だからです。このお方が、「わたしに従いなさい」と招いておられます。