毎日はいつも新しい
説教要旨(9月28日 朝礼拝)
マタイによる福音書 25:14-30
牧師 小宮一文
五タラントンと二タラントンを預けられたしもべと、そして一タラントンを預けられたしもべの行った道というのは大きく違ったものとなりました。この一タラントン預けられたしもべは悪くなかったように思えます。「わたしが蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集めることを知っていたのか」と、主人がこのしもべの言い分を認めていることが、それを後押しします。このしもべはこの主人の性格を理解して、むしろそういう厳しい主人にも最善のことになるような選択をしたではないか、と思います。しかしその性格の理解というのはそもそも正しかったのでしょうか。雨宮慧というカトリックの神父はそのような問いを投げかけています。五タラントンと二タラントンを預けられて商売に出かけたしもべは主人に対して、一タラントンのしもべとはまったく違う見方をしていたのではないか。同じ言葉でも二人のしもべは主人をこう思っていたのではないかと思います。「ご主人さま、あなたはわたしが足りない者ゆえに蒔かなかったところからも蒔いて刈り取ってくださる方です。わたしが力及ばなかったところからもかき集めて仕事を完成してくださいます」。そうなると二人のしもべにとって主人は厳しい方ではありません。
よく考えてみると一タラントンのしもべは慇懃に見えて無礼です。弱々しいふりをして攻撃的です。「わたしはあなたのことをよく知っています。理解しています。そういうあなたのことをわたしはわざわざ丁寧に考慮して、土の中に隠しておいてあげたんですよ。どうです?わたしの計画は」。正直にそう言えばよかったんです。「主人よ、お前もわたしの考えに従っていればよいのだ」。
何が、五タラントン二タラントンのしもべと、一タラントンのしもべの道を分けたのでしょうか。今日あげたもうひとつの聖書の言葉がそのことを語ってくれているように思います。「誰が初めのささやかな日をさげすむのか」(ゼカリヤ4:10)。
神さまはこの言葉を具体的な状況の中で語りました。この言葉を聞いたゼカリヤはバビロン捕囚の後に活動した預言者です。捕囚が終わって解放されたあとには別の問題がありました。それは廃墟に戻ってくることを意味します。捕囚から七十年近く経っていて遠い外国のようになっていました。以前のような神殿の建設をできる可能性はありません。その関心も民の中にはありません。そういう中で神殿の建設に取り組めという命令は厳しいことです。「なにあなたは無駄なことをしているの?」とあざけられます。そういう中、自分のやっていることがむなしいと思うことほどつらいものはないと思います。ゼカリヤは笑われています。自分でもそのことを知っています。神さまも知っています。それを承知で言うのです。「誰が初めのささやかな日をさげすむのか」。
だれが初めの一歩を踏み出したお前を笑うのか。親ってこういうものだと思います。子どもが、何でもいいのですが、新たな一歩を踏み出そうとするとき、それを周りと一緒になって笑う親は親ではありません。心がつぶれそうなゼカリヤに神さまは笑わないで「だれが初めの一歩を踏み出した勇敢なお前を笑えるのか」と言いました。
こういう経験のある子どもは強いです。「一歩踏み出したわたしをあの人は笑ったりしなかった」という経験がそうさせるのです。その子は勇気を持ちます。自分を笑わなかった人がいることを知っているからです。でも謙虚です。独善で立っているのではないからです。そしてその子もやがて一歩踏み出す人を真剣に応援する人になります。
五タラントンと二タラントンのしもべは自分たちの主人はそのような主人だと思っていたのだと思います。自分で自分の人生を成り立たせようとしている一タラントンのしもべがこの二人にかなうはずがありません。一歩なにかに踏み出すことをこの主人は笑わないとこの二人のしもべは知っています。小さくてもその一歩を笑われないと知っている者は次の一歩を踏み出すことができます。そうやって生きていってほしいという神さまの願いです。「誰が初めのささやかな日をさげすむのか」。
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