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虫の良すぎる話

説教要旨(6月25日 朝礼拝より)
ガラテヤの信徒への手紙 1:6-10
牧師 藤盛勇紀

 「わたしはあきれ果てています」。いきなりパウロの思いが吹き出します。ガラテヤの信徒たちが「ほかの福音に乗り換え」ようとしているからです。「乗り換える」は、口語訳聖書では「落ちていく」と訳されていますが、福音の乗り換えは教会の深刻な堕落です。それは、「キリストの恵み」から落ちることだからです。
 キリストの血潮によって罪赦され、完全に清められて神のものとされたのに、そうではないかのように思い込む。それは、「キリストの恵みへ招いてくださった方」、神から離れてしまう深刻な事態です。
 パウロは、「キリストに結ばれて」「キリストにおいて」という言葉を多用します。信仰と救いの問題はこれに尽きます。信仰は、私たちの内に何があるかではありません。外が問題なのです。パウロは言います「あなたがたは皆、信仰により、キリスト・イエスに結ばれて神の子なのです。洗礼を受けてキリストに結ばれたあなたがたは皆、キリストを着ているからです」(3:26,27)。
 信仰は、聞くことに始まる恵みです。徹頭徹尾外から来ます。だから私たちは、自分から目を離し、神から与えられるものを見るのです。あの「放蕩息子の譬え話」(ルカ15章)で、放蕩に身を持ち崩した息子を見つけた父は、自分から走り寄って首を抱きました。そして僕たちに、「急いでいちばん良い服を持って来て、この子に着せ、手に指輪をはめてやり、足に履き物を履かせなさい。それから、肥えた子牛を連れて来て屠りなさい。食べて祝おう」と言って、すぐに祝宴を始めます。親バカ丸出しです。息子の兄が怒るのも無理もありません。
 福音は、身勝手な放蕩の限りを尽くして汚れた惨めな体が、「いちばん良い」もの、キリストで包まれることです。これは虫の良すぎる話なので、道徳の教材にはなり得ません。だから人は、常識的で真面目な人にも納得できる話に曲げてしまうのです。
 「ぶどう園の労働者のたとえ」(マタイ20章)などは、現代であれば決して許されない、いや古代でも通用しない扱いを、神はしてしまわれる話です。主人(神)は言います、「自分のものを自分のしたいようにしては、いけないか。それとも、わたしの気前のよさをねたむのか」。神は人間の常識では許されないほど気前がよいのです。
 だから、人間として真面目な人ほど分からない。一方的な恵みに不安を感じ、放蕩息子の兄のように怒り出してしまう。あの兄の思い込みに、父親も途方に暮れて言います、「子よ、お前はいつもわたしと一緒にいる。わたしのものは全部お前のものだ」。しかし、兄はこれが分からなかった。父のものは全部自分のものだなどと思えなかった。だから、「お父さん、私にこれをください」と求めることさえできなかったのです。人間は、自分が神の子であることを知らないから、子として父に祈り求めもしない。恵みがあるのにいただかない。祝福の中にいるのに分からないのです。
 パウロは、自分の語ることがなかなか人に喜ばれないことを知っていました。厳しいことを語ったからではなく、キリストの福音、十字架の恵みが、あまりにも虫の良すぎることからです。「そんなことでいいのか」「人間にも救われるための努力がいるだろう」「罪人は裁かれるべきだ」という声があったし、今でも、あきれるほどあります。
 イエス様も、真面目で堅物のファリサイ派の人たちや、聖書のことは誰よりも詳しいと自負する学者たち、いかにも宗教者らしく見える祭司たちから、「そんなことが許されるか」と指弾されたのです。
 パウロはそうした声に対して、「あきれ果てている」「呪われよ」と言います。福音を拒否すれば祝福はないからです。福音は虫の良すぎる話に聞こえますが、神からの福音こそが、どんな人生をも祝福の内に歩ませる神からの力であり命なのです。
 

説教一覧(2017年度)

2017.4.2
信仰への一歩
2017.4.9
主がお入り用なのです
2017.4.16
信仰の目が開かれた
2017.4.23
主は生きておられる
2017.4.30
見えるようになれ
2017.5.7
主と共なる食事
2017.5.14
命の声を聞き分ける
2017.5.21
心の目が開かれて
2017.5.28
人によらず、神により
2017.6.4
真理の霊が来る
2017.6.11
神の子らよ、生きよ
2017.6.18
今日、必要なもの
2017.6.25
虫の良すぎる話
2017.7.2
神による回心
2017.7.9
離散している人たち
2017.7.16
恵みの伝統
2017.7.23
まっすぐで自由な道
2017.7.30
歌いつつ死んでゆく
2017.8.6
私の内のキリスト
2017.8.13
信仰に賭ける
2017.8.20
新しく生まれた人間
2017.8.27
描き出された十字架
2017.9.3
祝福あれ
2017.9.10
凪になる
2017.9.17
約束は信じる人に
2017.9.24
あなたがたは神の子
2017.10.1
目に見えないヴィジョン
2017.10.8
一粒の麦が地に落ち
2017.10.15
神の相続人
2017.10.22
神を知る時
2017.10.29
いささかも疑わずに
2017.11.5
神の賜る命
2017.11.12
父と家
2017.11.19
イエス・キリストの名によって
2017.11.26
あなたがたは今は神の民
2017.12.3
キリストが形づくられる
2017.12.10
油を用意して待て
2017.12.17
喜べ、自由な者よ
2017.12.24
神はあなたの味方
2017.12.31
遠くまで、響かせて
2018.1.7
キリスト者の自由
2018.1.14
貧しさと豊かさと
2018.1.21
人生を導く霊
2018.1.28
重荷を軽やかに
2018.2.4
十字架による新創造
2018.2.11
恵みと平和の計画
2018.2.18
あなたは何を望むのか
2018.2.25
満ちている祝福
2018.3.4
開かれた奥義
2018.3.11
試練か誘惑か
2018.3.18
神の国の手付金
2018.3.25
心の目が開かれて