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生きて残された者

説教要旨(3月22日 朝礼拝より)
ローマの信徒への手紙 9:25-29
牧師 藤盛勇紀

 ここでパウロは預言者の言葉を引用します。預言者は歴史の転換点や激動の時代の只中に立っています。パウロは、「イザヤはイスラエルについて、叫んでいます」と言い、預言者の叫びを聞いています。なぜ預言者は叫ぶのか。神がイスラエルを過酷な運命をもって裁かれるからか、あるいはその厳しい裁きの中にも驚くべき恵みを見ているからかもしれません。いずれでもあるでしょう。人間の経験・歴史には叫びがあります。今の世界も叫んでいます。
 イザヤはそうした経験の中に、生ける神の御業を見ます。「打たれながらも、生きている」。それを見ているのです。それをパウロはここで「残りの者が救われる」と言います。「たとえイスラエルの子らの数が海辺の砂のようであっても、残りの者が救われる」。私たちは「残りの者」なのだと。
 神は初めに、「産めよ、増えよ」と人間を祝福されました。しかし中国のように人口が爆発的に増えても、それが人間の救いになる訳ではありません。日本は逆に少子化が深刻な問題となる。人間はどっちに行っても悩みから抜け出せなません。
 生きること存在することの危機や不安は、常にあり続けます。しかし、私たちが現に今ここに生きて存在しているということは、「生まれなかったかもしれないのに」、その危機を通って、それにもかかわらず生かされている、ということです。
 だから、私たちは皆「残された者」です。最初の人間がアダムとエバから今の私たちまで、生と死が繰り返されながらも、途切れなかったのです。考えてみれば奇跡です。私たちは皆、無数の人々の生と死を通っていま存在しています。その無数の死の中には、戦争や病気や事故など「なぜこんなことで死ぬのか」という無数の叫びがあった。あるいは絶望の叫びもあったはずです。しかし、それにもかかわらず、途切れなかったので、私たちは今ここにいるのです。だから私たちは皆、救われて存在しているのだと言えますす。無から有を産み出すお方が、死よりも生を望まれているから、生きることが残されているのです。
 パウロはなぜここで預言者の言葉を引用したのでしょうか。パウロは、私たち人間は神の自由のもとに生かされていることをこの9章で語ってきました。神は自由なお方、「憐れもうとする者を憐れむ」方です。でもそこで人間はふて腐れるのです。「神が決めているなら、人間は逆らえないじゃないか」。「どうせこんな運命になるなら、なんで生きている意味があるのか」。そう神に口答えし、ふて腐れるのです。
 しかし、神の自由は、好き勝手をやる人間の自由とは違います。御自分の自由をもって《滅ぶべき者》を耐え忍び、《憐れまれるべきでない者》を憐れまれる。神はそのようなお方なのだということを預言者の言葉を引用して示そうとしているのです。
 ホセア書にはこうあります。「わたしは、自分の民でない者をわたしの民と呼び、愛されなかった者を愛された者と呼ぶ。『あなたたちは、わたしの民ではない』と言われたその場所で、彼らは生ける神の子らと呼ばれる」。神は、ひっくり返った人間を、翻らせるお方です。
 イザヤは、「わたしたちはソドムのようになり、ゴモラのようにされたであろう」と言います。ソドムとゴモラのように、絶滅させられてもおかしくかった。「それにもかかわらず」生きている。「万軍の主が」生かしてくださっているのです。《絶滅させられてもおかしくない者》が生まれるために、《滅ぼされてはならないお方》が、十字架の上に捨てられたからです。
 私たちはそのような神の愛によって「残された者」です。「このような者である《にもかかわらず》残されて生かされている」という恵みを証しする、「憐れみの器」なのです。
  

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