裁くことからの自由
説教要旨(6月11日 朝礼拝より)
マタイによる福音書 18:21-35
牧師 小宮一文
「仲間を赦さない家来のたとえ」と小見出しのつけられたイエスさまのたとえ話です。このたとえ話はペトロのイエスさまに対する質問から始まりました。「兄弟がわたしに対して罪を犯したなら、何回赦すべきでしょうか。七回までですか」。ペトロがこういう質問をしたのは、おそらく弟子たちの生活の中で何かがあったからだと思います。仲間の言った何気ない一言がペトロの心を傷つけた。そこでペトロは「どうすればいいでしょうか。兄弟がわたしに対して罪を犯してきたならば、わたしは何回までその兄弟を赦すべきでしょうか」とたずねたのだと思います。
このように質問したペトロに、ペトロ自身が赦すということをどう考えていたのかということがあらわれています。ペトロにとって赦すとは「我慢する」ことであったということです。弟子の仲間が自分を傷つけることを言った。しかしそこで沸き起こってくる怒りをぐっと飲み込んで我慢する、それがペトロの考える赦しでした。
しかしイエスさまの考える赦しはペトロが考えているものとは違っていました。この28節からしきりに「仲間」という言葉が出てきます。ほとんど一節ごとに仲間、仲間と繰り返されています。仲間と言いますと気の合う仲間といったものをイメージすると思います。しかしこの言葉を直訳すると「同じしもべ」という言葉になります。気の合う者同士としての仲間ではなく、同じ主人に仕えるしもべとしての仲間です。
そうするとイエスさまの考える赦しというものが浮かび上がってきます。あなたに損害を与えたあの人は、同じしもべではなかったか?同じしもべとしてなら、何回でもその人を戻してやることができるはずではないか、とイエスさまはここで問いかけているのです。同じしもべとして見ること、それならあなたにもできるだろう?と。
自分が怒りをぐっと飲み込んで我慢するのが赦すということではありません。それだったら精神力の強い一部の優れた人にしかそういうことはできないでしょう。イエスさまは私たちの心の狭さというものをよく分かっておられたと思います。あなたが赦そうとぐっと飲み込もうとしても、思いが喉につっかえて飲み込めないことをわたしは知っている。あなたが聖人君子のようになって怒りを飲み込むんじゃない。あの人を同じ借金を抱えた同じ罪人して隣に立たせてあげること、それならあなたも許すことはできるだろう、と言っているのです。
私たちにとって一番手に負えない、私たちを最も苦しめる感情が「裁く」ということではないでしょうか。だれかを裁いている自分が好きだという人などいないと思います。ですからなんとかして理由をつけようとします。もしくは「自分は裁くだなんてそんな醜い感情は持っていない」と、最初から自分はそのようなものとは無縁だと思う人もいるかもしれません。
イエスさまは私たちをどうにかしてそんな思いから解き放ちたいと願っておられるのです。あなたには、そんな思いを抱えながら生きてほしくない、と。そこで罪人として立つこと、あなたに罪を犯してきた人を同じ罪人として立たせてあげること、それならあなたにもできるはずだ、とこのたとえ話を通して言っているのです。赦すことが我慢して怒りを飲み込むことだとしたら一回も赦すことは無理かもしれません。しかし共に神に仕えている状態にその人を置くことなら何度でもすることができます。
しかし、それでも裁く心に苦しむならどうすればいいでしょうか。それでも自分の中の裁く心が騒いで苦しい。そのとき、イエスさまは手を広げておられると思います。わたしを刺しなさい、と。わたしを刺しなさい。わたしはどうしてもあなたに苦しんで生きてほしくない。「わたしを刺しなさい」と私たちの裁きを受け止めてくださるイエスさまがいます。私たちはこの十字架のもとで新しく生きていってよいのです。
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