ヒゼキヤの信仰
説教要旨(12月10日 朝礼拝)
列王記下 20:1-7
牧師 小宮一文
古代のイスラエル(ユダ)にヒゼキヤという王がいました。イスラエルの歴史の中ではめずらしく善い王として記録されている人です。その王に起こった出来事です。あるときイザヤが病気のヒゼキヤのところに来て「あなたは死ぬことになっていて、命はないのだから家族に遺言をしなさい」と告げます。これはやはり厳しいことです。しかしそこでヒゼキヤが次にしたことには注目すべきものがあります。ヒゼキヤは「顔を壁に向けて」祈り、「大いに泣いた」。ヒゼキヤは自分の思いを人にではなく、神さまにぶつけました。
ヒゼキヤは頼れる人がいない人ではありませんでした。むしろ王さまですから宮殿に家族も家来も軍人も大勢いたと思います。しかしそれらの人びとに「こんなわたしに寄り添ってくれ」ということは言いませんでした。良い意味で人に期待しない人だったのだと思います。江戸っ子の強がりに似ているかもしれません。「別に分かってもらえるなんて期待しちゃあいない。お前たちはやるべき仕事をやってくれ」と、同情を誘うのでもなく爽やかにそう言ったのだと思います。人が自分の苦しみを理解することは親であっても家族であっても友人であっても不可能だ、ということをよく知っていて、そんな明るい諦めがある人だったのだと思います。
もしここでヒゼキヤが人に期待をかけ、心を背負ってもらおうとしたら、確実に暴君になっていたでしょう。「わたしの苦しみを分かってくれ。分かってくれるならその証拠に二十四時間離れず寄り添ってくれ」と。そしてますます孤独になっていったと思います。
しかしそういうことはせず、ただ壁に向かって神に泣きました。そんなヒゼキヤを思い浮かべながら、迫ってくる言葉がありました。このヒゼキヤにイエスさまなら何と言っただろうか。「幸いだ」と言ったのではないかと思います。「心の貧しい人びとは幸いである、天の国はその人たちのものである」。ここでヒゼキヤは心の貧しい人間そのものです。江戸っ子の強がりと諦めと同じでほんとうは貧しいのです。王として自分を人で囲み、人で自分の心を豊かにしようと思えばできました。しかしヒゼキヤは人で自分を囲んで心を温めようとはせず、むしろ裸で神さまの前に立ちました。
そのような者に神さまは「幸いだ」と告げるのです。「心の貧しいヒゼキヤよ、お前は幸いだ。お前は人で自分を豊かにすることもできたのにそうはしなかった。だれかに背負ってもらおうと思わず、それを人に期待することも心の底からできず、お前はいま貧しくわたしの前に立っている。自分を覆うものを持たず、ひとり震えて立っている。幸いだ、わたしはお前のような者を迎えに来たのだ」。
そして神さまはヒゼキヤに言います。「わたしはあなたの祈りを聞き、涙を見た」。父なる神さまがヒゼキヤにこう語った言葉の背後に、やはりイエスさまがいると思います。
この言葉を読むたびに私はいつも思います。この言葉は私たちにも向けられている言葉です。しかしすべての人間の中でたった一人だけ、どんなに祈っても耳を傾けてもらえず、どんなに大声で泣いても目を向けてもらえなかった、たった一人の人がいます。この人が私たちの代わりに罪人になってくださったから、私たちに対するこの言葉があります。「わたしはあなたの祈りを聞き、涙を見た」。
先日、外国人の親子が、幼稚園生くらいの女の子とお母さんがお昼に教会の前を通っていました。喧嘩をしたらしく、「マミー、マミー」と言って女の子は地面に突っ伏して泣いていました。それに対し、お母さんは「もうあなたのことは知らない」といった様子で先に進んで見えないところぐらいまで行ってしまいました(しばらくして戻ってきました)。
父なる神さまからそうされることが死です。祈っても耳を傾けてもらえず、永遠に放っておかれ無視されるということです。そのお母さんが踵を返して戻ってきたように、父なる神さまも踵を返したのです。それがクリスマスだったのだと思います。
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