あの方の星に導かれて
説教要旨(9月3日 朝礼拝より)
マタイによる福音書 2:1-12
牧師 藤盛勇紀
クリスマスの物語として有名な「三人の博士」の話です。「占星術の学者」と言うと怪しげに聞こえますが、気象や天候や政治状況の変化も占い、国家の中枢で政策決定にかかわってた人たちだったのでしょう。彼らがなぜ、地位や生活を捨てるように旅立ったのか。あの星が彼らに何を示したのか。それは、新しい王の誕生でした。彼らは世の支配者の栄枯盛衰も知っていました。そんな儚いものより、確かで真実な拠り所はないのか。彼らの飢え渇きに応えるように、神が示したサインがあった。それを彼らは見逃さなかったのです。
「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか」。彼らの来訪は、ヘロデ王もエルサレムの人々をも不安にさせます。どこの誰か分からない新たな王の誕生は、新たな混乱や戦いを予感させます。学者たちは、誰が王なのかも知らずに旅立ちました。危うく頼りない旅です。しかし、全ての人間の人生がそうでしょう。気づいたら、人生の旅が始まっていた。不安な旅です。止めるわけにもいかない。いつまで続くのかさえ分からない。だからこそ、何に拠って行けばいいのか知りたい。どこへ向かう、どんな旅なのか。そのしるしがほしい。
学者たちは星に導かれ、小さな村で「王」を見出しました。そこにいたのは、名も無い貧しい夫婦の幼子。しかも、旅の途中で生まれ、飼い葉桶に寝かせられた幼子。思いもしなかった貧しさの極み。彼らは王に会うために、人生を賭けて来ました。王に献げる黄金、乳香、没薬の宝物も用意して。その果てに見出したのは、この貧しい赤ん坊。しかもそれを、ヘロデの宮殿から下ってきて見たのです。
もしも彼らが、富や力や栄誉を期待してここまで来たのだとしたら、愕然とし、絶望したでしょう。「いったい俺たちは何のためにここまで…」。また当てもなく、他の何かに賭けて生きるしかないのか。
しかし、彼らの旅はここで終わったのです。彼らを導いた星が、そこに「止まった」からです。止まった星が「ここだ!」「この幼子なのだ!」と告げる。もうよそへ探しに行かなくていい。もう他に賭けなくていい。自分探しの旅も終わった。動かないこの星が、彼ら自身も思いもしない喜びとなりました。
彼らはなぜ、幼子イエスを真の王と信じたのでしょうか? なぜ、星というしるしに、人生を賭けられたのか。真の王、救い主は、「ユダヤ人の王」として生まれる。彼らはそれを知ってた。ユダヤ人の聖書を、その預言を知っていたのです。それが、なぜか彼らが見上げていた星と結びついた。星が彼らにとってしるしとなり、彼らの導きとなりました。
詩編8編の言葉などを通して、無きに等しい者への神の憐れみを知っていたのかも知れません。異邦人をも祝福と憐れみの内に招かれる、聖書の神、創造主なる神が、彼らが毎日見ていたものをも用いて、導いておられる。それを悟ったのでしょう。
生きて導かれる神を知った者は、人生の方向きが変えられ、基盤、起点が与えられます。彼らは幸いにも、真の王にして救い主である方の許に導かれて、大きな喜びで満たされました。しかし、この貧しい幼子がどのようにして自分たちの王となられるのか、まだ知りません。彼らが礼拝した幼子は、やがて大いなる力を発揮されます。真の王でありながら、ご自分の民に捨てられ、十字架につけられ、全く無力な王となってです。人を救い命を与えるために大いなる力を現された。しかし、ご自身のためには全く無力な者となり、神でありながら、ご自身を与え尽くされました。だから、無力な幼子としてご自身を現されたのは、このお方に相応しかった。この貧しさの極みのただ中に、主は来られた。ここに、私たちを導くしるしあります。ここで。主の御声を聞くのです。ここでよいのだ、私のものとして生きてよいのだと。
恵みによって召された集いは、キリストのからだです。私たちが真の王の星、生ける主のしるしです。だから私たちは小さな群でも、世界に向かって「ここだ!」と告げるのです。
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