イエス・キリストの系図
説教要旨(8月20日 朝礼拝より)
マタイによる福音書 1:1-17
牧師 藤盛勇紀
「アブラハムの子ダビデの子、イエス・キリストの系図」。マタイ福音書は名前の羅列で始まりますが、アブラハムの子孫のユダヤ人にとってはかなり異常な系図です。タマル、ラハブ、ルツ、ウリヤの妻と女性の名がある点。しかも全員異邦人で、内3人には恥ずかしい問題があります。タマルは遊女になりすまして舅のユダによって子をもうけます。ラハブもエリコの町の遊女。ダビデ王は、忠実な家臣ウリヤの妻バト・シェバと姦淫の罪を犯し、ウリヤをわざと戦死させてバト・シェバを妻にします。最初の子は死んで、二人目の子がソロモンです。ルツは素晴らしい女性ですが、モアブ人。モアブ人の祖はアブラハムの甥ロト。ロトの娘たちは父に酒を飲ませ、父との間に子をもうけます。その子孫がモアブ人で、イスラエルを誘惑する民族だと言われます。
表に出したくない名が挙げられるのですが、マタイは言いたいのです。異邦人にも、いかなる罪を犯した人にも、救いへの招きがある。この恥ずかしい血筋と歴史に生まれたイエスに、全ての人はつながり得る。なぜなら、イエスこそ全人類の罪を担って贖い、新しい命に生かすキリスト、救い主メシアだからだと。
「イエス・キリスト」とは、イエスがキリストであるという、最も短い信仰告白です。この方にあなたの命があり、この方がいつでもどこでも拠り頼むべき真理であり、あなたの歩むべき道。この方にあなたも招かれている。生きている資格もないと思われるような人も、この方にあって「生きよ」と言われているのだと。マタイ自身がそんな人でした。職業は徴税人。ユダヤを支配するローマの手先となって、同胞のユダヤ人たちから不当に税を取り立てる。同胞から「売国奴、恥知らずの裏切り者」と罵られながら、「どうせ俺は売国奴だ」と開き直って同胞から搾取する。そんなマタイが、イエス様と出会い、立ち上がり、この方によって生きたのです。
イエスという人の最期については、誰もが知っていました。同胞のユダヤ人から憎まれ、蔑まれ、弟子たちにも見捨てられ、神を冒涜した者、呪われた者として処刑された。この系図は、死刑となった犯罪人の系図なのです。
ダビデの血筋とは言っても、何の意味もないほどに落ちる所まで落ちた貧しさの極みの中に、イエス様は生まれました。30歳くらいの頃、神の国の福音を宣べ伝え始め、多くの人々の期待を集めるも、僅か3年余り後、十字架につけられる。こんな惨めな最期、こんな転落の人生があるかと思わされる生涯。
しかしマタイは、神はこの方に私たちの罪の一切を担わせ、十字架の上で打ち砕かれたのだと語ります。汚れた血筋に生まれ、どん底に落ちたこの方に神の愛が余すところなく現されたのだ。途方もなく長い歴史もこの方へと収斂し、この方から新しい時が開かれた。世界の歴史と人生の転換点なのだと。
徴税人の時のマタイは、同胞から悪口雑言を浴びせられたでしょう。しかし今、キリストを信じたマタイは、別の悪口を浴びせられています。イエス様は言われました。「わたしのためにののしられ、迫害され、身に覚えのないことであらゆる悪口を浴びせられるとき、あなたがたは幸いである。喜びなさい。大いに喜びなさい」(5:11~12)。その通り、今やマタイは、イエスのためにののしられ悪口を浴びせられる者とされて、大いに喜んでいるのです。イエス様に結ばれて、新しい命による人生と世界が開かれたのです。
今の時代がどんな時代であろうと、世の人々が何を価値ありとして生きていようと、人々が自分に何と言おうと、この方に結ばれたなら、その人はこの時代の中で立ち上がり、生きて、希望を持って、死ぬまで大いに喜んで、世の人を揺さぶります。感動を与え、「ああ、本当に神は生きておられるのかも知れない」と人々に思わせ、この時代にあってイエスへと人々を招く器となる。
このイエス・キリストの系図は、歴史をひっくり返し、人生をひっくり返す。「見よ、古いものは過ぎ去った」と言える。そんな新しい命が、この方イエスにあるのです。
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