救いに至る悲しみ
説教要旨(7月18日朝礼拝より)
コリントの信徒への手紙二 7:5-12
牧師 藤盛勇紀
「あの手紙によってあなたがたを悲しませたとしても、わたしは後悔しません」(8)とパウロは言います。2:4で「涙ながらに手紙を書きました」と言った「涙の手紙」が、コリントの信徒たちを深く悲しませ、その結果信徒たちは悔い改めに至ったというのです。ただ、問題が全て解決したわけではなく、新たな問題も生じ、悩みも悲しみも、苦難も尽きることはありません。
イエス様は弟子たちに最後に「あなたたがには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている」と言われました。主が私たちに与えて下さるのは苦難や悲しみのない人生ではなく、避けられない苦難の中で、しかし主の勝利によって勇気を持って生きる人生です。苦難に襲われ、悲しみに打ちひしがれても、主によって何度でも立ち上がる命です。
パウロはこう言います、「神の御心に適った悲しみは、取り消されることのない救いに通じる悔い改めを生じさせ、世の悲しみは死をもたらします」。悲しみは避けられませんが、救いに至る悲しみがあり、死に至る悲しみがあるのです。
パウロの「涙の手紙」は「厳しい手紙」とも呼ばれます。コリントの人々を深く突き刺し叩きのめしたのでしょう。しかしコリントの信徒たちは、それで開き直ったり絶望したりしたのではなく、神の御前で悲しみました。自分たちは恵みをまさに恵みとして受け、無償で神の命をいただいたのに、何ということか。彼らはキリストの恵みの下で悲しみました。それは「御心にかなった悲しみ」でした。
そうではない悲しみもあります。【神から離れたままの自分】が自分の内で独り悲しむ自分中心の悲しみは、自己破壊的になり、時に他人を巻き込みます。「世の悲しみは死をもたらす」とは、大げさではないのです。
どんなに悔やんでも《取り返しのつかない悲しみ》があります。イエス様を裏切っあのユダ、一番弟子のペトロも他の弟子たちも皆同じでした。ユダは激しい後悔の内に自死します。自分で自分に決着を付けたのです。ペトロはイエス様を否んだ時、主のお言葉を思い起こします。「あなたは三度私を知らないと言うだろう」。この主とそのお言葉のもとに激しく泣き続けました。
その後ペトロは復活の主に出会います。その時、三度イエスを知らないと否んだ分、三度主から「私を愛するか」と問われます。最も痛くて辛い問いです。イエスが三度も「私を愛するか」と言われたので、ペトロは「悲しくなった」とあります(ヨハネ21章)。最も痛い傷を深くえぐられ、主の御手に触れられたのです。
悲しみが死に至るのは、【命の主なる神から離れたまま】となるからです。ならば、そこから救われるのは【神のもとに在る】ということでしょう。神は私たちを決して離すことはなく、実はいかなる時も慰めも祝福も尽きることはありません。だから、悲しむとすれば、神のもとで悲しむのです。怒りと悲しみで叫ばずにいられないなら、「なぜですか主よ!」と神に叫ぶのです。
神の御前に自分を隠しようがありません、私たちは丸裸です。そんな私が自分に耐え、しかも神の前に立ち得るのは、キリストが私を覆ってくださっているからです。パウロは「キリストを着ている」と言いました。主は私を裸のまま放り出されず、ご自身で包んでしまわれます。とがも汚れも醜さも全ての呪いも引き受けてしまわれました。
もしあなたが、「何度も主を裏切るようなことをしてしました」とか「神様を悲しませるような私です」と言うのなら、何度でも主の御言葉を聞くのです。「私を愛するか」と主は問われます。愛せなかった者、裏切った者に何度でも問われます。だから私たちは、もう一度、いや何度でも、悲しみながらでも、「主よあなたがご存じです」と、主の前で立ち上がるのです。
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