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今週の説教

キリストにある弁明

説教要旨(11月28日 朝礼拝より)
コリントの信徒への手紙二 12:19-21
牧師 藤盛勇紀

 このパウロの言葉はあまりにも率直、あからさまな物言いで身も蓋もない話のように思われます。心配事を畳みかけるように語って終わっています。コリントの信徒たちからパウロは誤解されていました。パウロたちは自己弁護をしているのだ、教師面をして、キリストの使徒だと言い張って、口出しをしてきているのだと。パウロが忍耐をもって手紙を何度も書き送りながら指導していることも、パウロは自己推薦しているのだと批判されていました。
 しかしパウロはここで一言こう述べます。「愛する人たち、すべてはあなたがたを造り上げるためなのです」。パウロやその同労者たちへのいわれ無き中傷や誤解に対する、パウロのささやかな「弁明」です。「自己弁護をしている」という言葉は「弁明する」という言葉です。「自己弁護」と言うといかにも自己中心的な思いでするイメージがありますが、パウロがここで語ろうとしているのは、自分を守る自己弁護ではなく「弁明」なのです。キリスト教会は古代から弁明も重要な使命としてきました。キリスト教弁証論と言われます。実は福音そのものに、「弁明」の性格があるのです。
 神の愛と恵みとキリストによる救いを世の人々に説明して、これは全ての人への喜ばしい音信(福音)だと分かってもらいたいのです。ただ、十字架につけられた人が神の子・救い主だと告げる福音は、人間には「愚かなこと」です。直ちには受け入れてはもらえません。パウロも福音宣教者としてその困難を味わっています。同胞のユダヤ人からは「あの男は疫病のような人間だ」と言われて命を狙われ、キリスト者からは誤解され攻撃さえ受ける。これはパウロ自身の危機ではなく、コリントの信徒たちが福音から離れてしまう危機です。だからそんなコリント教会が心配で、率直に言えば、分かってほしいのです。
 もし、人の心の底に溜まった憎しみ妬み恨み、どす黒い思いが全て見えてしまったらどうでしょう。そんなことには耐えられません。しかし神は全てご存じですし、イエス様は人間のあらゆる罪を知っておられました。ふつうの人なら「もういい!こんな人間とは関係を切る!」と思うでしょう。
 ところがイエス様は、呆れたことにそんな人間を愛し通され、ご自分を殺す者たちのために、「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは自分が何をしているのか知らないのです」と執りなされました。人からは醜い思いしか向けられず、最悪のことしかされなかったのに、イエス様は人に対して決して悪を報いることなく、むしろ最良のことしかなさいませんでした。
 だからパウロは「十字架の言葉は愚か」だと言いました。しかし「神はこの宣教という愚かな手段によって信じる者を救おうとされたのだ」と。
 パウロはここでただ途方に暮れているだけではありません。もちろん絶望していません。酷い誤解を受けながらも、「わたしたちは神の御前で、キリストに結ばれて語っています。愛する人たち、すべてはあなたがたを造り上げるためなのです」と、愚かになって弁明します。
 「造り上げる」とは、一人一人にキリストの愛と恵みが注がれて養われることであり、私たちがキリストの体の一枝とされて用いられ生かされることでもあるでしょう。そのようにしてキリストが世に証しされ、現されるのです。パウロはガラテヤ書で言いました。「わたしの子供たち、キリストがあなたがたの内に形づくられるまで、わたしは、もう一度あなたがたを産もうと苦しんでいます」。キリストが現されていくならば、そこには主が味わわれた誤解や恥や憎しみや妬みを、私たちも受けることになるでしょう。福音は人間には愚かなことだからです。この《愚か》を晒しながら、福音は伝えられるのです。

説教一覧(2021年度)

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