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最も小さい者

説教要旨(8月8日朝礼拝より)
サムエル記上 9:14-10:1
伝道師 杉山悠世

 「わたしはイスラエルで最も小さな部族ベニヤミンの者ですし、そのベニヤミンでも最小の一族の者です。どんな理由でわたしにそのようなことを言われるのですか。」(21)サウルは戸惑いつつも、「どんな理由で」とサムエルに問いかけました。「無理だ」「出来ない」とは言わずに。それこそ神へ応答する者の姿です。神への畏れから「なぜ自分が」という思いと、前例のない役割に対する不安と責任が入り交じっていたことでしょう。
 ある注解書は、サウルの言葉を「定型化された謙遜な祈りの言葉」だと言っています。「私なんて」という卑下するような思いからこう言うのではないのです。また、形式的な返答でもなく祈りの言葉なのです。
 サウルの出身地、ベニヤミン族の町ギブアは士師記19-21章で蛮行を行った恥ずべき町として語られ、ホセア書10:9では「イスラエルよ、ギブアの日々以来/お前は罪を犯し続けています。罪にとどまり、背く者らに/ギブアで戦いが襲いかからないだろうか。」といわれるほどに、その蛮行が深く記憶に刻まれているのです。そのために、ギブアを中心とした虐殺事件が起こり(士師20:46-48)、ベニヤミン族の数が減少しました。しかし、自分が力の無い家系の出身であることを語るのは、一種の定型的な表現で、士師ギデオン、サウルに次いで王となるダビデも同じような表現で謙遜を表しています。けれども、その謙遜は形ばかりではなく、同時に「なぜ自分が神のお働きに招かれているのか」という驚きをも含んでいました。神からの特別な召しを頂いたものは少なからず、恐れをも抱くのです。モーセをはじめとする預言者、イエスの母マリアも同様。10章では、人々の前でくじ引きによってサウルが王に選出されるが、その時もサウルは荷物の間に隠れていることからも伺えます。
 しかし、小さな者であるにもかかわらず神は豊かに用いてくださいます。「小さい者」というのはほかの何者かと比べて劣っているというのではなく。神の豊かな恵みと尽きぬ愛の前に私が小さくされ神の存在が大きく偉大であることが露になるのです。「小さな者」は自分の小ささ、貧弱さ、無力さに嘆くのではなく、あるいは、それを覆い隠すために富や権力を誇示するのでもなく、主を誇る者として生きるようになります。神の栄光を表す器となることを喜んで、小さな器にあふれんばかりに注がれる神の恵みに目を留めるのです。人は何のために生きるのかとの問いに、聖書は「神の栄光を世に表すため」であると答えている通りです。
 「油注がれ」てサウルは神に任じられた指導者となりました。「油注がれた者」(メシア)はヘブライ語で、「救い主」という意味もあります。ギリシャ語ではキリストと訳されている言葉です。イエス・キリストというとき、「イエスは我が救い主である」という信仰の告白なのです。つまり、サウルはメシアであると言えます。しかし、元々メシアが救い主を意味したのではなく、油を注いで王に任命したことから転じて、「王のような権威を持つもの」をメシアというようになりました。イエス・キリストとは「我が王であり、我が救い主イエス」を言い表しています。
 神はサウルを王とすることで、イスラエルの民ばかりではなく、すべてのものが救いに導かれる道を敷いてくださいました。そして、主の前に小さなわたしたちの内に、神の霊、キリストの霊が注がれました。世の人々から見れば小さな存在にすぎないわたしたちを通して、偉大な神の御栄光があらわされるためです。

説教一覧(2021年度)

2021.4.4
私に触れてみよ
2021.4.11
罪の贖いの犠牲
2021.4.18
信じたゆえに語る
2021.4.25
日々新たにされて
2021.5.2
天の住まい
2021.5.9
恵みによって贖われ
2021.5.16
駆り立てる愛
2021.5.23
主の証人となる
2021.5.30
新しい人の創造
2021.6.6
今こそ、恵みの時
2021.6.13
聖なる国民
2021.6.20
見よ、生きている
2021.6.27
神の息子、娘たち
2021.7.4
共に死に、共に生きる
2021.7.11
光の中を歩む時
2021.7.18
救いに至る悲しみ
2021.7.25
帰ってみれば分かる
2021.8.1
豊かな者はさらに豊かに
2021.8.8
最も小さい者
2021.8.15
溢れ出て、なお潤う
2021.8.22
主の栄光の現れ
2021.8.29
あの時の熱意を今
2021.9.5
豊かに蒔き、刈り取る
2021.9.12
頼るべき一人の方
2021.9.19
要塞をも破壊する力
2021.9.26
弱そうだが強い
2021.10.3
誇る者は主を誇れ
2021.10.10
神の守りのしるし
2021.10.17
神の熱い思い
2021.10.24
低き所より光を放つ
2021.10.31
決して廃れない誇り
2021.11.7
弱いときにこそ強い
2021.11.14
主があなたに油を注ぎ
2021.11.21
信仰の遺産
2021.11.28
キリストにある弁明
2021.12.5
キリストの弱さと力
2021.12.12
見よ、この時を
2021.12.19
あなたの光、あなたの王
2021.12.26
あなたの中のキリスト
2022.1.2
愛と平和の神と共に
2022.1.9
約束の聖霊
2022.1.16
イエスの名を呼ぶ人々
2022.1.23
無欠の豊かさ
2022.1.30
何による一致か
2022.2.6
十字架の言葉は神の力
2022.2.13
裁きと栄光
2022.2.20
神の力、神の知恵
2022.2.27
誇る者は、主を誇れ
2022.3.6
赦しとしての神の力
2022.3.13
神の知恵は十字架の愛
2022.3.20
地の果てに至るまで
2022.3.27
霊によって一切を知る