地の果てに至るまで
説教要旨(3月20日 朝礼拝より)
使徒言行録 1:6-11
牧師 杉山悠世
「エルサレムを離れず、前にわたしから聞いた、父の約束されたものを待ちなさい。」(4) 復活されたイエスさまが、弟子たちに現れて食卓についておられた時におっしゃった言葉です。弟子たちは「また待たなければならないのか」と思ったでしょう。イスラエル王国の再興を長い事待ちわび、その日を恋焦がれ、イエスさまこそ国を立て直すために与えられたメシアだと期待していました。しかし、そのイエスさまが十字架という最も苦しく、みじめで、むごい死を遂げられて、彼らは希望を失い落胆したのです。けれども、そのお方が復活したとなれば、今度こそは革命のリーダーとして間違いなくイスラエルを率いてローマ帝国を打破してくれるに違いないという新たな期待があったのです。復活したお姿をもって、人々にイエスさまの力を知らしめることができると思ったかもしれません。一方で、イエスさまはこのような弟子たちの問いに、「あなたがたの知るところではない。」(7) とお答えになりました。言い換えると、「あなた方のすることではない」。この後、イスラエルが王国を再建することができるのか、あるいは神さまの御計画に関わる務めを託されるのか、誰にもわかりません。隠された状態。それは、弟子たちのなすべき務めではないからです。彼らには、別の使命が与えられています。「イスラエルのことは神のみ手に委ねなさい」と言われているのです。
自分たちが歴史を、そして、神をも動かすことができるかのような言動は、「待つ」ということとは正反対です。「待つ」ことは、ひたすら受け身です。私たちは何かいいことを思いついたと思うと、周りが見えなくなり、後先考えずに自分の思いのままに動いてしまうことがあります。それでうまくいくこともあるかも知れません。しかし、それは本当に神さまの御心なのか、自分の心の声に従っただけなのか、立ち止まり、吟味してみる必要があります。祈りながら、聖霊の語りかけを待つのです。
新共同訳聖書には書かれていませんが、8節の冒頭には「だがしかし」という逆説の接続詞が入ります。大きな逆説が語られるからです。イスラエル王国が再興するにしても、しないにしても、それはいつどのようにということは弟子たちの心配するべきことではない。「だがしかし」、「あなたがたは力を受ける。そして、地の果てに至るまで、わたしの為の証人となる」というのです。彼らには「聖霊が彼らに降り、力を受ける」という大きな約束が与えられているのです。今、ここから、イエス・キリストを宣べ伝える務めに遣わされます。しかし、現状、弟子たちは力不足でした。十字架におかかりになり、復活された神の御子の救いの恵み、豊かさを十分に語る言葉を持ち得なかったので聖霊が与えられたのです。
「力」という言葉は、ダイナマイトの語源です。聖霊による洗礼は何の特別な力も持たない弟子たちに、爆発的な大きな力を与えるのです。復活の主の証人としての働きは、父なる神の霊が彼らを通して語り、働かれるのです。努力や経験を重ねて証人となるのではありません。聖霊によって弟子たちは、言葉と行いとにおいてイエス・キリストを証しする証人となるのです。
弟子たちはイスラエルの復興とは全く異なる役割が与えられました。しかし、全く関係ない働きではありません。復活の主の証人とはつまり、教会の誕生のために遣わされた働き人です。ユダヤ人だけではな、すべての人々のためにも新たなイスラエルをお立てになる、新しい神の民の誕生、その神さまの御計画に参与するということなのです。それが、復活の主に出会い、教えられた弟子たちに与えられた使命ですが、直接に復活の主を仰ぎ見た彼らにだけ特別に与えられた使命ではありません。彼らに続くイエス・キリストの弟子たちである私たちにも与えられている使命であり、働きです。復活の主を信じた人々の群れ、それが教会です。復活の主との出会いの経験が、そのお方がわたしたちと共に生きておられるという信仰が人々を一つの群れにしたのです。
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