露と消える偉人
説教要旨(5月11日 朝礼拝)
マタイによる福音書 14:1-12
牧師 藤盛勇紀

ヘロデの誕生祝いの余興に首をはねられたヨハネは、独特の風貌で人々の前に現れ、メシアによる神の国が来る!と告げて、人々に悔い改めを迫りました(3章)。宗教指導者たちにも「蝮の子らよ、悔い改めにふさわしい実を結べ」と容赦ありません。イエス様がガリラヤを中心に伝道を開始されたのは、このヨハネが捕らえられた時からでした(4章)。ヨハネはヘロデ王をも批判しました。ヘロデは兄弟フィリポの妻ヘロディアを奪い、自分の妻にしていたのです。このヘロディアの娘が、母親に唆されたとは言え、「ヨハネの首を盆に載せて、この場でください」と、ヘロデにねだったのです。ヘロデは一方でヨハネを恐れて保護し、その教えを喜んで聞いていたので(マルコ福音書)戸惑います。しかし、その複雑な思いは、神を恐れることにはつながりませんでした。信仰の芽生えも、せいぜいファッションや教養としての信仰止まり。人間は聖なるものに触れ、神とその業を感じながらも、どこまでも自己中心なのです。
聖なるものに触れると人間は驚きや畏れを抱きますが、いつまでもそれに耐えられません。私たち人間の内には罪が住み、それがうずくのです。そして、この体を使って聖なるものから遠ざかろうとします。悪魔・悪霊がまさにそれです。イエスに近づかれると、悪霊どもは「イエスよ、神の子よ、かまわないでくれ!」と叫びました。神から離れた人間の悲惨、おぞましさを見る思いがします。
では、こんな罪の中にある人間にあっさりと殺されたヨハネには、どうでしょうか。どれほど惨めだったか、首をはねられる時どれほど悔しい思いをしたか、などと想像しがちですが、そうでしょうか?
ヨハネは、人々の前に現れるイエスについてこう言いました。「私は悔い改めに導くために、あなたたちに水で洗礼を授けているが、私の後から来る方は、私よりも優れておられる。わたしは、その履物をお脱がせする値打ちもない」。これは、自分などと比べると、後から来られるイエスははるかに優れたお方だということが言いたいのではありません。
ヨハネ福音書を見ると、ヨハネはイエス様の活動の様子を聞いて、こう言いました。「花嫁を迎えるのは花婿だ。花婿の介添え人はそばに立って耳を傾け、花婿の声が聞こえると大いに喜ぶ。だから、私は喜びで満たされている。あの方は栄え、私は衰えねばならない」。
ヨハネは、ただイエスというお方の存在、その到来を見て、花婿を迎える介添人のように喜んでいます。そしてこの時すでに、自分が衰え消えていくことを知っていたのです。このお方を迎えして、自分はただ衰え消える。露と消えるようにあっけなく。自分の人生に、何の意味も無かったかのように、宴会の余興に首をはねられる。ただの慰み者。憎しみや嫌悪感も滲み出たおふざけと、お遊びで殺される。
こんな人生、こんな最期は、誰もが勘弁してほしいと思うだろう。「こんな死に方をするために生まれてきたなんて、そんなこと考えたくもない」、そう思うのが普通です。しかしヨハネは、それを知っていたとしても、それでいい、そんな最期でもいい、自分がどんな最期を迎えるか、そんなことはそもそもどうでもよいと、思ったはずです。
ヨハネは、自分が露と消えていくことを予感しながら、悲しげに「私は衰えねばならない」と言ったのではありません。そんあ敗北者の弁ではなく「私は喜びで満たされている」と言ったのです。
全ての人がそうですが、結局は衰えて行きます。しかし、どうせ最後は衰えて死ぬんだなどという、泣き言やいじけた言葉ではありません。「喜びで満たされている」のです。
マタイは、ヨハネのあっけない最後を記しながら、こんな惨めな死に方くらいで、喜びが失われることなどないと言いたいのです。 それは、私たち罪人のために肉を裂き、血を流されるお方、誰にも理解されず、むしろ呪われた者、神の冒涜者として罵られ、唾されて捨てられるお方が、来られたからです。
このお方が私たちに真の命をもたらす真の命そのもの、栄光のお方だからです。命なるイエスが私の内におられ、死ぬはずのこの私を生きてくださっている。であるならば、どんな死に方かなど、問題ではありません。
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