私の願いと主の憐れみ
説教要旨(12月7日 朝礼拝より)
マタイによる福音書 20:29-34
牧師 藤盛勇紀
いよいよイエス様がエルサレムに入られる、その直前の出来事です。民衆の間では、この方こそダビデの子、救い主メシアではないかという期待が最高に高まっています。イエス様が「神の国は近づいた」と宣べ伝え始めてから、多くの民衆が力ある業としるしを目の当たりにしました。ただその裏で、宗教指導者たちはすでにイエスを亡き者にしようと考えています。そんな状況の中、イエス様の一行がエルサレムに入って行きます。最後に立ち寄る町エリコを出て、大勢の群衆も付いてきます。「そのとき、二人の盲人が道端に座っていたが、イエスがお通りと聞いて、『主よ、ダビデの子よ、わたしたちを憐れんでください』と叫んだ」。群衆は盲人たちを叱って、黙らせようとしますが、二人はますます叫び続けます。 彼らはイエス様をダビデの子、メシアだと信じています。彼らが求めたのは、「憐れみ」でした。
この後、エルサレム周辺の多くの群衆がイエス様を迎え、歓喜して叫びます。「ダビデの子にホサナ。主の名によって来られる方に」。ところが群衆は、「ダビデの子よ」と叫ぶ二人を黙らせようと叱ります。なぜでしょうか。この二人の目が見えないのは、本人か縁者が何か罪を犯した結果だろうと考えています。しかし今、メシアがエルサレムの都に入る。驚くべき力を発揮して、新たな王となってイスラエルを神の国として再興してくださる。その輝かしい力のもと、自分たちも栄光に入れられる。そんな、いわゆるハレの日、栄光に満ちた時が来るのだ、と。
なのに、今道ばたに座って物乞いをしている惨めな盲人たちが、「憐れんでください」と叫ぶ。完全に場違いで邪魔だと思われたのです。しかし、イエス様がエルサレムに来られたのは、ご自身が惨めさの極みに落とされて、どんなに恥ずかしい人間でもこれほど惨めに捨てられることはない、惨たらしい死を迎えるためでした。ユダヤ人にとっては、神に呪われた者となることです。
イエス様は二人の盲人を癒やされました。それは、ただ主の憐れみなのです。この二人の盲人は、他の群衆とは違って、今まさに恥を受けています。人々から、恥ずかしい、哀れだ、惨めだと思われて、自分は恥ずかしく、惨めな罪人だと知っている。そんな罪人のために、メシアご自身が最も惨めな者、呪われた罪人として十字架の道を行かれるのです。
「ああ、自分は惨めだ」と思っている人はどれだけいるでしょうか。自分は刑罰を受け、処刑されているに等しい者だ、と思っている人がどれだけいるでしょうか。現代人の現実をサルトルは、「自由の刑に処せられている」と言いました。上もなく下もない自由な宇宙空間で、自分の重さでただ落下している。人間はそんな自由には耐えられません。落ちて行く私を捕らえて、地の上に立たせてほしい。そうしたら上と下の秩序の中に安定します。天と地の狭間に生きる者として立てます。
しかし、誰が私たちを捕らえてくれるでしょうか。私たちを造り、存在させ、生きるものとしてくださっている主なる神しかあり得ません。この二人の盲人は、今そんな自分たちの前に来られたお方がダビデの子、メシア、活ける神の子だと信じました。このお方イエスは、憐れみの主メシアと信じています。信じている者だけが、自分の恥も惨めさも晒して、「私を憐れんでください」と願うことができるのでしょう。
パウロはローマ7章の終わりで、「私は何と惨めな人間なのでしょう。死に定められたこの体から、誰が私を救ってくれるでしょうか」と、救いようのない自分を晒します。同時にそこで、「私たちの主イエス・キリストを通して紙に感謝いたします!」と讃えるのです。主よ、あなたは救いようのない私を祝福をもたらす者にしてくださっている。ああ、あなたはなんというお方なのか。底抜けに憐れみ深い主との交わりをいている人は幸いです。
「主よ、わたしたちを憐れんでください」。この人間の最も深い叫びに応えて、世に来られた神の御子の誕生を覚える時期を迎えています。すでにイエスは世に来られ、私たちのために死んで、そして今生きておられます。憐れみをいただいた者は、この二人の盲人のように、見える者とされて、イエスに従って行くのです。
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