命のパンを求めて
説教要旨(4月21日 朝礼拝)
マタイによる福音書 6:9-11
牧師 藤盛勇紀
天の父は私たちに必要なものをご存知です。主の祈りで求めている「日用の糧」とは何でしょうか。今日の食べ物にも困ってる人はほとんどいないでしょう。では、「この祈りは聞かれている。良かった。感謝」ということでしょうか。あるいは、自分は満たされているが、世には食べられない人がいくらでもいる、この現実の中で何事かをなすように促されている。ということでしょうか。そうこともあるでしょう。イエス様が5千人の群衆の腹を満たしたとき(14章)、弟子たちに、「あなたがたが彼らに食べる物を与えない」と言われたのです。弟子たちは困惑しました。「一体どうやって?」。食べ物はほとんど無い。ここで人々を満足させる食べ物とは何なのだろうか?
そう考えると、人が食べるパンがあるのか無いのかという問題ではない、と分かります。思い起こすのは、イエス様がメシアとしての働きをなさる前にサタンから誘惑を受けたときの御言葉です。「人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる」(4:4)。サタンの誘惑は、「あなたが神の子なら、石をパンになるよう命じたらどうですか」。つまり、パンが無いことが問題だ。あなたがパンを出せば問題は解消されるでしょう、それが正義でしょう、それが救いでしょう、ということです。それに対して主は、あの言葉を語られたのです。「日用の糧」、今日食べる物をくださいと祈って、今日もパンがあるから良かった、という単純なことではありません。
主の祈りでは、この祈りの前に「御国が来ますように」、「御心が天でおこなわれるように地にも」と祈っています。《天から地へ》現される実現を祈っているのです。ならば、この地上の生活の具体的な必要を求めるにしても、この《天から地へ》となされる神の御心と御業を求めることになるはずです。
日毎の糧は深刻な問題でもありましたから、日毎に必要が満たされるように求めるのも当然です。しかしそれでも、天とのつながりを忘れて祈り求めることは考えられません。
人間にとって、食べ物は単なる「物」ではありません。私たちは単に「エサ」を食べているのではありません。パンがあれば人間になるわけでもない。人が食べるのは意味があるのです。食事は出来事なのです。そこで何かが起こっている。だから「食事」なのでしょう。何が起こっているのか。何を目指して食べるのか。つまり、私は何のために、何を目指して生きるのか、という問いがそこにあるのです。
「神の口から出る一つ一つの言葉で生きる」。ここでの「言葉」とは、時々に語られる生きた言葉です。神から来る言葉。「言葉で」の「で」は、英語の”on”、信頼を意味します。神の言葉に「乗っている。拠り頼んで信頼している」こと。だから、神に語っていただくことが必要なのです。そこで、私たちが聞くことが起こります。
神の言葉が語られ、それに乗り、頼って、私たちが応答するとき、神の御業・神の御心が私たちに現され、具現化され、経験されて行きます。そこで必要が満たされることもあるだろうし、社会のありように目を向けさせられることもあるでしょう。それは、生きて語られる言葉によって開かれるのです。神の言葉は力、実体です。御言葉があれば、起こるのです。
主は生きておられます。そして常に語っておられます。今、主は私たちに与えておられる。だから私たちの方が、自分を置いて(捨てて)、それに応えて行くのです。パラボラアンテナを回すように天をまさぐってチューニングし、共鳴させられ、振るわされるのです。そこで開かれることは、真に必要な「パン」とは、命の糧であるキリストに他ならないという真理です。
「わたしが命のパンである。わたしのもとに来る者は決して飢えることがなく、わたしを信じる者は決して渇くことがない。命を与えるのは“霊”である。肉は何の役にも立たない。わたしがあなたがたに話した言葉は霊であり、命である」(ヨハネ6:35,63)。キリストご自身が命のパン。主とその霊の言葉こそ命です。主は語っておられます。アンテナを回すように、上からの光に顔を向けるひまわりのように、自分の思いを向けて行きましょう。
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