こころ ほどく 恵み
説教要旨(9月8日 朝礼拝)
マタイによる福音書 11:7-19
牧師 星野江理香
洗礼者ヨハネに遣わされて来たヨハネの弟子たちが帰ったその後、そのヨハネについて主イエスが語られています。
洗礼者ヨハネは、荒野から全イスラエルに神様への立ち帰りを呼びかけ、主イエスの地上での御働きの備えとして用いられました。そのため主はヨハネを「預言者以上の者」と呼ばれ、またヨハネがメシア到来の前に現れると預言されたエリヤであるとも明らかにされています。それは、神の民イスラエルの人間なら誰もがわかるほど知られたメシア預言の一つでした。
もっとも、私たちが「ルカによる福音書」によって知っているように、ヨハネの父、祭司ザカリアは、当初、高齢の自分たち夫婦に子どもが生まれるという御使いによる知らせを信じられなかった人物です。そのため、その頑なさと同様口と舌を固く縛められて会話できない状態になりました。しかし、ヨハネ誕生の頃には頑なさを脱し、神様のご指示の通り子どもの名をヨハネと定めますと、たちまち「口が開き、舌がほどけ、神を賛美し始めた」と伝えられています。
そのザカリアのもとで成長し、荒野にて
イスラエルの人々に呼びかけた洗礼者ヨハネのところには、当時、様々な目的と期待を持った人々が大勢やって来ました。けれども、多くの人がヨハネの言葉につまずき、さらには主イエスにも、その癒しのみわざ等を目の前で見ながら、またその恩恵を受けながら、多くの人がつまずいたのでした。
ここで主イエスは、当時の子どもたちの戯れ歌らしいと言われている、「笛を吹いたのに、/踊ってくれなかった葬式の歌をうたったのに、/悲しんでくれなかった」という歌を用いて語られています。それは、ヨハネの勧めも主イエスによる福音も、いずれもが多くのイスラエルの人々に受け容れられなかったことを嘆いておいでになる言葉です。福音を受け容れ、その喜びを共にし、喜びのうちに生きることを求めてくださったのに、多くのイスラエルの人々は、主と共なる喜びに生きることをしなかったからです。もっともそれは、21世紀の今を生きる私たちにも言えることでしょう。
けれども、御父も主イエスも、ただ嘆いてばかりおられたのではありません。「煩わしい」、「時間がない」「くだらない」と、自分たちの日常生活から神様を切り捨ててしまいがちで、自分の力や知恵で十分生きていけると思い込み、神様に無関心な私たち人間に、神様の愛のみ心は無関心でいることがおできにならなかったからです。
そのために主イエスは、御父の深い御旨と御計画のままに十字架の上で死なれたのでした。頑なな私たちのために、私たちの罪と共に十字架につけられ主は死なれました。あまりに近づきすぎてサタンに激しく攻撃されることさえ厭わず、私たちの罪の世界に近づき介入してくださったのです。主は人間の罪の歴史の中に捨て身でおいでくださいました。そうして主の十字架とご復活のみわざによる、私たちの救いが実現されました。
ご復活後の主イエスは御父のもとにおありになりますが、同時に聖霊の御働きによって、いつも私たちと共においでになります。今を生きて働かれ、私たちひとり一人と向き合い、私たちの頑なさから私たちを取り戻そうとしてくださいます。長い間の孤独や人生における様々な傷や劣等感、粗末なプライドでカチカチに固まった私たちの心を、主は、辛抱強く少しずつ、そして心から神様を信頼したザカリアの舌がついにほどかれたように、頑なな私たちの心をほどいてくださるのです。日々の祈りや礼拝による主との出会いと御言と聖霊によって少しずつほどかれていきます。一度では上手くいきません。無理をすると却って痛んだり壊れたりするかも知れないので、わからないほど少しずつ。洗礼を受けた後も、すぐに何が変わったのかわからないほどです。でも、私たちは日ごとに聖化されてゆきます。時に間違うことがあっても、主は聖霊の御力によって私たちを導き護られます。そして、祭司ザカリアがほどかれた舌で神様を大いに讃美したように、私たちも神様に心からの讃美を献げたいのです。
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