神の国は来ている
説教要旨(8月11日 朝礼拝)
マルコによる福音書 4:26-29
牧師 小宮一文
このたとえ話はイエスさまが「神の国はどのように来るのか」ということについて語ったたとえ話です。分かりやすすぎるほど分かりやすいたとえ話であると思います。「夜昼、寝起きしているうちに、種は芽を出して成長するが、どうしてそうなるのか、その人は知らない。土はひとりでに実を結ばせるのであり、まず茎、次に穂、そしてその穂には豊かな実ができる」。
このたとえ話と同じような平易なたとえで浅野順一という説教者は「神の国とは汀である」と言いました。汀とは水際、渚のことです。磯遊びをした経験のある方なら分かると思います。空気がひんやりし始める夕方にまだ遊んでいると、だんだんと足首が海水に浸かってくるのが分かります。潮が満ち始めたということです。しかし潮が満ち始めるとき、それがいつ始まったかは分かりません。知らない間に満ちてきて、ようやく足首が浸かるほどになって潮が満ちてきたことに気づきます。神の国はそのように知らない間に始まっているのだ、と。神さまのご支配がそのように目には見えないところで始まっているということに、元気づけられるような気がします。
同じことを神さまは預言者のイザヤにも語りました。「見よ、新しいことをわたしは行う。今や、それは芽生えている。あなたたちはそれを悟らないのか。わたしは荒れ野に道を敷き砂漠に大河を流れさせる」(イザヤ43:19)。
この言葉を読むとき一つ注意したいのは、この言葉は希望にあふれている人に向けて語られた言葉ではないということです。希望を失った捕囚の民に向けて語られた言葉です。人生が中断され、未来を失った人に、神さまが語りかけた言葉です。「お前が見えなくても、新しい人生がお前の中に始まっているのだよ、だから、悟れ」と、神さまは泣いている子どもの背中をさすって慰めるようにこのことを語っているのです。エゼキエルも神殿がだんだんと水で満ちていく幻を見ました。見えないところで神の国は始まっているということを見たのです。
イエスさまの復活を目撃した弟子たちはコヘレトの言葉をまったく新しく受け取り直したと思います。自分たちがイエスさまから受けたこと、知ったことを水に浮かべて流すなら、月日がたってから、その実りはかならず見いだされるということをこの言葉から知ったと思います。
だから嬉しかったと思います。自分たちの伝えた福音は、月日がたってから、かならず見いだされるということに。「南風に倒されても北風に倒されても木はその倒れたところに横たわる」。ソロモンはこう言いたかったのだと思います。南風に倒されても北風に倒されても、木はその倒されたところに横たわる。木が倒れて地面と接触するとき、その接触面にはエネルギーが発生する、空気の振動、音も発生する。どこに倒れたとしてもそこには福音の出来事がかならず起こる。北に倒れても、南に倒れても、そこにはかならずエネルギーが発生する。あなたたちはそういう木そのものなんだよ、と。
だから「朝、種を蒔け、夜にも手を休めるな。実を結ぶのはあれかこれか、それとも両方なのか、分からないのだから」と言います。神さまが実らせるということを信じないとき、罪は人をどうするかというと無気力、怠惰、絶望です。「疲れた」「どうせ明日も同じだ」。人間的には同情されるかもしれませんが、神さまを信じていないという罪は同情されることではありません。信じないことは、そこから向きを変えなければいけないものです。
しかしソロモンがこのことを律法主義者のように苦しそうな顔で言っているのではないことは明らかです。明らかに楽しそうです。でもそのことを一番信じていたのはやはりイエスさまだったと思います。
イエスさまは種を蒔く農夫のたとえ話をしました。あの農夫は風変わりな農夫です。三つのところ種を蒔くわけですが、その一つは道端でした。この農夫は愚かなことをしているように見えます。でもこの農夫は信じていたのではないかと思います。「ここにも実る」と。これが神さまの私たちに対する見方です。これが神さまの世界の完成の仕方です。
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