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自由の由来

説教要旨(8月23日 朝礼拝より)
ローマの信徒への手紙 13:1-10
牧師 藤盛勇紀

 「人は皆、上に立つ権威に従うべきです」。この言葉に違和感を感じる人は少なくないでしょう。自由で民主的な社会に生きている私たちにとって、「上に立つ権威に従え」とはどういう意味があるのかと。
 高校2年生が書いた「自由になるための束縛を求めて」という論文を読みました。結論部分にこうあります。「私は、人間とは生まれながらに束縛を持つものだと思う。人は完全な『自由』に耐えられるほど強い存在ではない。だから自分を一番自由にしてくれる束縛、それを探していけばいいのだ。それを見つけて人は自由へと飛翔していくのだから」。この論文の中に、サルトルの有名な言葉が引用されていました。「人間は自由の刑に処せられている」。
 一方、いまアメリカが大変なことになっています。人種差別に対する抗議から始まったデモが無政府主義者や共産主義者に扇動され、各地で暴動となっています。彼らは警察組織の解体まで要求していますが、警察解体を叫びながら、混乱の中で自分たちが傷つくと、「警察は何をしている!」と叫ぶ。倒錯した混乱と無秩序の自由。
 現代人が嫌う権威の究極は「神」でしょう。現代人にとって神は死んだものとされ、神無き自由を生き、神無き現実を苦しみ、「神は何をしている!」と叫ぶ。そして、倒錯した現代人は神も希望もなく死ぬ。サルトルが「人間は自由の刑に処せられている」「人間は絶望」だと言ったのは当たっています。
 なぜ、自由が人間にとって「刑罰」となっているのか。それは、自由の「由来」を知らないからでしょう。人間の自由は当然で自然だと思われています。自然には目も意志も意図もありませんから、自由は意味も目的も失い、人間を無秩序にし、人間は目的のない自らの自由によって苦しみ、神無き死を死ぬのです。
 「人は皆、上に立つ権威に従うべき」とは、現代人にとって耳障りの良くない言葉。「だから聖書はダメだ」と言う人もいます。「権威」がそのように嫌われるのは、権威は自由と対立し、自由を束縛するものと思われているからです。しかし、先ほどの高校生は、人を本当に自由に「してくれる」束縛が必要だというのです。この束縛を、「権威」と言い換えても通ります。
 近代社会の自由の源流を遡れば、聖書に由来すると言わざるを得ません。人間の自由とは、何の由来もなく生じたのではなく、天から降ってきたのでもありません。根拠があり意味があり、由来・歴史があります。
 「出レジプト」は、指導者モーセのもとにイスラエルがエジプトから解放された出来事です。それは、人間が生来持っている自由を人間の努力によって実を結んだ結果ではありません。ようやくのことでイスラエルがエジプトを脱出した夜、「その夜、主は、彼らをエジプトの国から導き出すために寝ずの番をされた」といいます。間もなくイスラエルがエジプト軍に迫られた時、神はモーセを通して何と言われたか。「主があなたたちのために戦われる。あなたたちは静かにしていなさい!」です。
 神の愛と憐れみとその御力が、イスラエルを自由にしたのです。彼らを自由にしてくださる神の権威が、彼らを解放し、自由を与えたのです。
 ところがそのイスラエルも、自由を履き違え、神に背を向けて自由に突っ走ります。その結果がまさに自分自身への裁きです。身は自由でも「罪と死の奴隷」。
 しかし、そこから私たちを解放し、真の自由を得させるために、神の御子が、罪ゆえの裁きと、本当の死の絶望をご自身に引き受けてくださいました。それを知る者は神の自己犠牲の愛ゆえの自由だと、その由来を知るのです。この自由が十字架の下にあるのを知っているから、私たちは十字架の下に立って、《自由にしていただいた者》として神のために生きたいのです。

説教一覧(2020年度)

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