文字は殺し、霊は生かす
説教要旨(2月28日 朝礼拝より)
コリントの信徒への手紙二 3:4-11
牧師 藤盛勇紀
「わたしたちは、キリストによってこのような確信を神の前で抱いています」とパウロは言います。ここに訳されていない接続詞があって、直前でパウロが「確信」について語ったことを受けています。ふつう言われる「確信」は「自信」に似たもので、人に対して持っていることが多いものですが、パウロが言う確信は違うようです。
諸教会を混乱させていた偽教師たちは、立派で誇らしい「推薦状」(履歴書)を携えていました。しかしパウロの履歴書には「キリストの迫害者だった。徹底的に教会を迫害した」という大罪が記されています。1~3節の「推薦状」は一種の「証明書」で、それを持って方々で伝道していた者たちがいたのです。異言を語ることができる、癒しの力を持っている、雄弁家であるとか、どこそこで奇跡を行ったなど、能力や業績についての証明書を書いてもらって、それをもって自分の権威を示していたのです。
伝道でさえ人間の功績を積み上げ人と比べて誇る手段にされてしまい、「文字」とされ評価される。伝道が、かえって人々を神から引き離すことになってしまっている。「文字は殺し、霊は生かす」という言葉の背景には、そうしたことがあったのです。
ここで「文字」とは直接的には律法(ノルマ)のことですが、推薦状や成績証明書、功績や資格や誇りによって生きる世界を象徴します。それは常に人に対して向けられ、人と比べられ、人との比較・優劣の中で生きる意味を見出そうとする生き方を表すもの。まさにノルマ社会、常にプレッシャーに悩み、焦り、あくせくし、他人を押しのけ蹴落として生きる世界です。
そんな「文字で生きる世界」に対して、パウロは「霊は生かす」と言います。霊によって生かされる生がある。「もちろん、独りで何かできるなどと思う資格が、自分にあるということではありません。わたしたちの資格は神から与えられたものです」。「資格」とは、確かに何かをなす力です。私の生きる力、私が今このように生きてよい資格・力は、神から与えられたというのです。この確信を「キリストによって」抱いている。それは、キリストによって自分の内に力を見出したというのではなく、キリストによって、自分が全く無力だと知る、そんな経験です。
かつてのパウロは、自分の能力に自信を持ち、確信に満ちていました。しかしその確信と力を、教会の迫害者として発揮したのです。それが今やイエス・キリストを宣べ伝える者にされている。これはパウロ自身が獲得した力でなり得るものではありません。ただ、私のために血を流したキリストのゆえに、赦された私だと知った、そこで与えられた人生そのものだったのです。キリストの霊を注がれていた私だと知る、だから「霊は生かす」のです。イエス様を裏切り見捨てた弟子たちは、裏切り者集団として復活のイエス様と再会しました。その時イエス様は、汚い裏切り者の彼らに「霊を受けよ」と息を吹きかけられました。命の主から命の霊を注がれて赦されて生きるのでなければ、私たちはいつも自分の何かによって生きている、と思い違いをします。「自分の力」だと思うから、いつでも自分を他人と比べながらでないと生きられない。自分の位置や価値を客観的に示してくれる「文字」が欲しいのです。
しかし、「私は命の主によって生かされている」と知る時に、ありきたりの生活が、つまらない生活ではなくなります。実は神が生き生きと働いておられる生活となり、神が共に生きてくださる人生になります。
パウロは「新しい契約」と言います。預言者がそこに救いを見た、神と人とのきずなです。それはキリストご自身の血と命が注ぎ出されることによる命の霊のきずなであり、新しい契約による新しい人間の生、霊によって生かされる人生です。
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