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共に福音に与るために

説教要旨(10月30日 朝礼拝より)
コリントの信徒への手紙一 9:19-23
牧師 藤盛勇紀

 「私は誰に対しても自由な者」だとパウロは言います。8章からのテーマでもありますが、自由について語れば様々な議論が起こります。しかしパウロは、言葉や概念をこねくり回すような空しいことはせず、コリントの人たちに対して、自由なパウロ自身を見せようとしているのです。「ユダヤ人に対しては、ユダヤ人のようになり、律法に支配されている人に対しては、…律法に支配されている人のようになり、律法を持たない人に対しては、律法を持たない人のようになり、すべての人に対してすべてのものになった」。もしパウロが日本に来たなら、日本人のようになった。そのように自由に伝道したのは、「何とかして何人かでも救うため」です。
 パウロが常に強調していることは、救われるのは行いによらず、ただ信仰による、ということです。ユダヤ人が生命線として手放すことのなかった律法の行いから、私たちは完全に自由にされている。私たちが何かを行ったからではない、何かをなし得たからでもない、ただ神の《恵みのみ》。それをいただく《信仰のみ》だと。
 ところがパウロは、ユダヤ人たちの間では、あえて律法に従って見せました。そこまで自由だったのです。パウロは「割礼の有無は問題ではない」と繰り返し語ります。しかし、ユダヤ人の間で伝道する時は、「ユダヤ人の手前、彼(テモテ)に割礼を授け」、エルサレム教会を訪ねた時も、ヤコブや長老たちの勧めに従って、あえて律法の規定通りの儀式を行って、律法を守る姿勢を示したこともありました。パウロには、《こうでなければ》といった縛りはありません。その時々に、自由な態度決定をするのです。それは8章の初めに出てきた、《偶像に供えられた肉を食べてもよいのか悪いのか》といった問題についても、自由をもって判断しました。何を食べようと自由だが、信仰や良心の弱い人がいたら、自分も肉を食べないと決めるのです。
 イエスは「真理はあなたがたを自由にする」と言われ、互いに愛し合うことのみを新しい律法となさいました。パウロも「互いに愛し合うことのほかは、だれに対しても借りがあってはなりません」と言います。何をするのが善く、何が悪いのか、予め決まっているわけではなく、キリストの律法である《愛に基づいて》、自由な者として判断するのです。
 この自由は単なる理念ではなく、学者が見出した概念でもありません。キリストの御業によって罪の縄目から解き放たれた者の、生そのものです。キリストによって生かされた者が、事実自由なのです。この自由には具体的な由来があり方向があります。根拠も目的もある自由。キリストの血によって、私を贖い取ってくださった主なる神の御業による自由、福音による自由です。
 だから、パウロは「何とかして何人かでも救うため」「福音のためなら、わたしはどんなことでもします」と大胆に宣言します。「福音のために」私たちはあらゆることから自由にされているし、あらゆることを自由に用いる用意があります。自由にはこうして目的があるから、こう言うことができました。「わたしは、だれに対しても自由な者ですが、すべての人の奴隷になりました。できるだけ多くの人を得るためです」。
 パウロは自らの自由をただ「福音」のために用います。「わたしが福音に共にあずかる者となるため」なのだと。この言葉は不思議です。すでに福音の恵みに与っているのに、なぜ今さら「福音に共にあずかる者となるため」と言うのか。これは、福音に与った者が、福音によって生きて行くことなのです。福音は、何かの知識や新しい考え方や思想ではありません。福音は、それ自体が命なのです。「わたしは真理であり命であり道である」と主は言われました。私たちはこの方によって命を与えられ、生かされ、導かれ、完成させられる、その真理の道を歩んでいます。福音は主イエスご自身なのです。この方と共に生き、この方が示されるところを目指し、共に福音に与る者となりながら、歩み続けます。

説教一覧(2022年度)

2022.4.3
霊の人か、肉の人か
2022.4.10
主がお入り用なのです
2022.4.17
さあ行って、伝えなさい
2022.4.24
命の主なる神
2022.5.1
キリストという土台
2022.5.8
出来損ないのその先に
2022.5.15
あなた方は神の神殿
2022.5.22
私たちのもの、神のもの
2022.5.29
神の奥義の管理者
2022.6.5
霊の風に吹かれる
2022.6.12
言は神であった
2022.6.19
世のくずとされても
2022.6.26
信仰は言葉ではなく力
2022.7.3
悪意の種を取り除け
2022.7.10
災いの中でも働く方
2022.7.17
キリストの体を現す交わり
2022.7.24
天使たちをも裁く
2022.7.31
神の栄光を現せ
2022.8.7
自分の体は誰のものか
2022.8.14
神に遣わされた人
2022.8.21
平和な生活を送るために
2022.8.28
神に召された者として
2022.9.4
世の有り様は過ぎ去る
2022.9.11
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2022.9.18
知ることは愛すること
2022.9.25
はじまりは全て主
2022.10.2
自由を用いる自由
2022.10.9
この世の権威の猛威
2022.10.16
福音を語る者の自由
2022.10.23
福音を告げずにいられない
2022.10.30
共に福音に与るために
2022.11.6
朽ちない冠を得るために
2022.11.13
恵みの上に恵みを受けて
2022.11.20
自立したと思うな
2022.11.27
祝福と賛美の交感
2022.12.4
神の栄光のため
2022.12.11
荒れ地にも恵みはある
2022.12.18
自分で判断しなさい
2022.12.25
あなたを導く星
2023.1.1
主の食卓に集まろう
2023.1.8
新しい契約
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自分をわきまえる
2023.1.22
霊の賜物
2023.1.29
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2023.2.5
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2023.2.12
しるしは示された
2023.2.19
人それぞれの賜物
2023.2.26
神から注がれる愛の実
2023.3.5
信仰、希望、愛
2023.3.12
私はこの方を知らなかった
2023.3.19
勧め、慰める預言
2023.3.26
神の言葉が分かる