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駆り立てる愛

説教要旨(5月16日 朝礼拝より)
コリントの信徒への手紙二 5:11-15
牧師 藤盛勇紀

 誰でも確信や誇りを持って生きたい。努力を重ねて何かを身につけ、何かを獲得して行けば、そこから自信や誇りを得て、確信ある生き方、人生になるように思います。しかし、パウロはフィリピ書3章で、人が羨む出自や育ちの良さや優れた点をわざと誇って見せながら、それらを「キリストのゆえに損失と見なすようになった」「塵あくたと見なしています」と言います。
 そしてここで、「人々の説得に努めます」と言います。いつか手放さなければならないものを確信の拠り所とする生き方の愚かしさに気づいてほしいのです。誰でもキリストにあるならば、塵あくた・ガラクタにしがみつく人生は終わるのだと。
 続けてこう言います。「わたしたちは、神にはありのままに知らています」。全知全能の神に「ありのままに知らて」いるのは当然だろうと思うでしょう。しかし、そのように生きていないことが問題なのです。神にありのままに知らていることが何の力や確信になるのか分からないし思いもしない。だからこそ、パウロは説得したいのです。
 「説得する」という言葉は、受け身では「確信する」とも訳されます(⇒ローマ8:38~)。真の「確信」は自分で獲得するものではありません。能力や所有を拡大して自分で自分を確かすることではなく、「説得されている」こと、口説かれていることです。「えっ、こんな私が?」「そうだ」と。「私はあなたを決して手放すことはない!」と神から口説かれていることです。
 パウロは「あなたがたにもう一度自己推薦をしようというのではありません」と言います。自己推薦の問題は「誇る」というテーマと共に繰り返し現れます。背景に偽教師たちの問題がありました。コリントの信徒たちは彼らの魅力に惹かれていますが、「外面を誇っている」「うわべだけを誇っている人々」だとパウロは指摘します。
 キリストの恵みによって生きることを知らなければ、人は自分の誇りになるものを何でも身につけようとします。学識、経験、家柄、人脈、持ち物、誇れるものなら何でも誇る。それはキリストを知る以前のパウロの姿でもありました。しかし、キリストを知って、うわべではない確かな誇りを見出したのです。それは、何も持たない裸の私を捕らえ、生かし、用いてくださる神の愛です。神はありのままの私を知っておられる。なのに、こんな私を愛してくださっている。この事実です。
 パウロはちょっと変わったことを言います。「わたしたちが正気でないとするなら、それは神のためであったし、正気であるなら、それはあなたがたのためです」。神の前に生きることは、世の人から見たらどこか正気でないと思われる面があります。「神だのキリストだの、そんなことよりもっと有益なことが人生にはいくらでもあるだろうに」というのが、この世の思いです。
 もし自分が神との関係だけで生きているなら、狂おしいほどの喜びに浸っていてよいのですが、人に向かう時には正気を保ち、言葉を尽くして理性的に語ろうとします。そのように整える力は、キリストの愛です。「キリストの愛がわたしたちを駆り立てているから」だと言います。キリストの愛は私たちを熱くすると同時に、人に向かっては冷静にさせます。愛は考えさせ、忍耐させ、工夫を生み出します。
 14節は、二つのことが言われているような翻訳になっていますが、《あのキリストの十字架の死は死は全ての人のためだった。そう考える私たちにはキリストの愛が迫っいるではないか!》というのです。この愛から離れようとしている人々を、神の愛によって生きる命に立ち帰らせたい。そのために、パウロは「説得」します。パウロを通して、愛なる神に説得され口説かれて、その愛に駆り立てられてほしいのです。それこそが真の「確信」だからです。

説教一覧(2021年度)

2021.4.4
私に触れてみよ
2021.4.11
罪の贖いの犠牲
2021.4.18
信じたゆえに語る
2021.4.25
日々新たにされて
2021.5.2
天の住まい
2021.5.9
恵みによって贖われ
2021.5.16
駆り立てる愛
2021.5.23
主の証人となる
2021.5.30
新しい人の創造
2021.6.6
今こそ、恵みの時
2021.6.13
聖なる国民
2021.6.20
見よ、生きている
2021.6.27
神の息子、娘たち
2021.7.4
共に死に、共に生きる
2021.7.11
光の中を歩む時
2021.7.18
救いに至る悲しみ
2021.7.25
帰ってみれば分かる
2021.8.1
豊かな者はさらに豊かに
2021.8.8
最も小さい者
2021.8.15
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主の栄光の現れ
2021.8.29
あの時の熱意を今
2021.9.5
豊かに蒔き、刈り取る
2021.9.12
頼るべき一人の方
2021.9.19
要塞をも破壊する力
2021.9.26
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2021.10.3
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2021.10.10
神の守りのしるし
2021.10.17
神の熱い思い
2021.10.24
低き所より光を放つ
2021.10.31
決して廃れない誇り
2021.11.7
弱いときにこそ強い
2021.11.14
主があなたに油を注ぎ
2021.11.21
信仰の遺産
2021.11.28
キリストにある弁明
2021.12.5
キリストの弱さと力
2021.12.12
見よ、この時を
2021.12.19
あなたの光、あなたの王
2021.12.26
あなたの中のキリスト
2022.1.2
愛と平和の神と共に
2022.1.9
約束の聖霊
2022.1.16
イエスの名を呼ぶ人々
2022.1.23
無欠の豊かさ
2022.1.30
何による一致か
2022.2.6
十字架の言葉は神の力
2022.2.13
裁きと栄光
2022.2.20
神の力、神の知恵
2022.2.27
誇る者は、主を誇れ
2022.3.6
赦しとしての神の力
2022.3.13
神の知恵は十字架の愛
2022.3.20
地の果てに至るまで
2022.3.27
霊によって一切を知る