十字架の言葉は神の力

説教要旨（2月6日 朝礼拝より）
コリントの信徒への手紙二 1:18-19
牧師 藤盛勇紀

　「十字架の言葉は、滅んでいく者にとっては愚かなものですが、わたしたち救われる者には神の力です」。大胆な宣言です。神の力ならば、他のどんな力も及ばず、しかもこれが私たちのためだとすれば、この力に触れ、この力に与ったなら、私たちはどんな時にも力を失うことはあり得ません。
　ただ、なぜ「十字架の《言葉》」と言うのでしょうか。「十字架の出来事」と言えば、キリストが十字架につけられたことだろうと、誰でも知っているでしょう。「十字架の言葉」と言うのは、まずは、あのイエスの十字架そのものが言葉を発したということでしょう。そして今も言葉を発している。
　あの十字架が言葉を発したとすれば、それはどんな言葉だったのか。福音書に不思議な証言があります。あの時、十字架の周りの人々は誰も十字架の死の意味など思いもしませんでした。主イエスを慕っていた人々にとっては、ただ悲惨で無念で不安で、潰されてしまいそうな出来事。弟子は雲隠れし、主の死の時、昼間なのに暗闇のようになり、希望の光が潰えた瞬間でした。
　ところが、その闇の中に閃く光のように、思いもしない人から思いもしない言葉が発せられました。「本当にこの人は神の子だった」との百人隊長の告白です。自分たちが十字架につけたこの人は真に神の子だった。神は人となり、罪人として、神に呪われた者として死んだ。侮辱、嘲り、罵り、全てをかぶったまま死んだ。神はこの方に人間の罪の一切を負わせてしまったのだ。この方の十字架の死は、私たちの救いだったと。
　百人隊長以外の人々はどうだったか。十字架後、三日目に主は復活され、40日後に天に昇り、さらに10日後、約束の聖霊が弟子たちに注がれて、ようやくイエスがどんな方だったのかが分かり、十字架の死が自分たちの救いのためだと分かったのでした。
　あの十字架が語っていた言葉を、今度は自分たちが語り伝えるようにされました。十字架の言葉はまさに神の力です。イエスの十字架そのものが言葉でしたが、十字架の言葉は新たに語り出されます。だから私たちも十字架に付けられたイエス・キリストの福音を宣べ伝えています。
　十字架の言葉は「力」となって、私たち自身に告白させ、証言させ、その力によって生き生かされるようにします。こうして「十字架の言葉」は福音の伝道となります。
　「十字架の言葉は、滅んでいく者にとっては愚かなものですが、わたしたち救われる者には神の力です」と言います。「滅んでいく者」と「救われる者」がいる。恐ろしい言葉に聞こえるかもしれませんが、脅しているわけではありません。「滅ぶのでなく、救われて生きよ」ということです。これは神ご自身の願いなのです。
　あなたは呪いではなく祝福を選べ！　災いではなく幸いを選べ！　死ではなく命を選べと。主なる神はあなたに「生きよ！」と願い、叫んでおられます。イエスの十字架は神の叫びです。あなたが命を選んで生きるめに、神の御子が死なれた。あなたが義とされるために御子が罪とされ、あなたが祝福の中を生きるために、神の御子が呪いとなってしまわれたのです。
　十字架につけられたイエスが、今生きて語っておられます。だから救われて生きるべきです。あなたに命を与え、その命を愛し、滅ぶことを願わないあなたの主によって、死から命へと生きるべきです。
　人の言葉は人を救うことも生かすこともできません。人を造り命を与えたのは神なのです。「それは、こう書いてあるからです。「わたしは知恵ある者の知恵を滅ぼし、賢い者の賢さを意味のないものにする。」
　死も命も支配する方を認めない人にとっては、十字架は愚かです。十字架の言葉も愚かです。しかし、「十字架の言葉は、滅んでいく者にとっては愚かなものですが、わたしたち救われる者には神の力です」。