人の報いと神の報い

説教要旨（2月18日 朝礼拝）
マタイによる福音書 6:1-8
牧師 藤盛勇紀

　「見てもらおうとして、人の前で善行をしないように注意しなさい」。「さもないと、あなたがたの天の父のもとで報いをいただけない」。なぜなら、「彼らは既に報いを受けている」からだと主は言われます。「報い」は、人が何かをする時の目的や動機です。善行をするにも動機が問題です。神は人の行いではなく心をご覧になるからです。特別な善行をした人が、「お礼が欲しくてしたのではありません。人として当然のことをしただけです」と言うのを聞くことがあります。しかし、「ありがとう」の一言もなかったら、「何だあの人は」となります。人として当然の思いから出たことは、人として当然の反応を、無意識の内に要求しています。
　「お互い様」というのは社会の生活をスムーズにする知恵でもありますが、「お互い様」にならずに、自分だけがすることになったら、良い思いからしたはずなのに、恨みや怒りが沸いてしまいます。心の底では、人からの賞賛が欲しい、自分のしたことを知って欲しい。「右の手のすることを左の手」どころか、右足にも左足にも知らせたくて仕方ないのです。
　しかし、人に知ってもらって、褒められて欲求が満たされる。それが何だ？とイエスは問うておられます。あなたが為すことは、結局人との取り引きだ。良いものを人に見せることができて、人から良い評価や評判を受けた。それは商売だ。人から評価を支払ってもらって、おしまいなのだと。そこであなたの神はどこにおられるのだ？と。
　イエス様は「祈るときにも」と言われます。「あなたがたは偽善者のようであってはならない。偽善者たちは、人に見てもらおうと…、彼らは既に報いを受けている」。
　教会で皆の前で祈る時、緊張するでしょう。初めて人前で祈った時など、何を祈ったか覚えていなかったりします。自分の祈りがどう聞かれているか、気になるのです。
　「だから、あなたが祈るときは、奥まった自分の部屋に入って戸を閉め、隠れたところにおられるあなたの父に祈りなさい」と主は言われる。「そうすれば、隠れたことを見ておられるあなたの父が報いてくださる」。
　これは祈る場所や環境のことではなく、「あなた」一人になれということです。あなたと共におられる「あなたの父」と親しく交わりを持てるのだから。そこで「あなたの父に」祈りなさい。誰も知らない一人のあなた。そこに「隠れたことを見ておられるあなたの父」がおられる。そこでは、あなたとあなたの父とのやり取りしかないのだ。神は「あなたの父」なのだから、何でも打ち明けてごらん。何でも、求めてごらん。
　パウロはこう言いました。「何事につけ、感謝を込めて祈りと願いをささげ、求めているものを神に打ち明けなさい。そうすれば、あらゆる人知を超える神の平和が、あなたがたの心と考えとをキリスト・イエスによって守るでしょう」（フィリピ4:6､7）。
　電車の中でも風呂の中でも、人知を超えた、イエスにある平安と親しい交わりを味わい、喜び楽しめるのです。父なる神との甘美な交わりは、何物にも代えられませんし、他のどこにもありません。これは人からの報いではない神からの報いです。
　人に見て欲しい、認めて欲しいのは、人によって生きて、人に甘えて人に支配されてしまっていることです。しかし、私たちが本当に甘えてよいのは人ではなく、天の父です。人に甘えられるのはある部分だけですし、全てを人にぶつけることもできません。しかし、神には全てをぶつけてよいのです。私の名によって何でも願え、何でも求めよ、と主は言われました。そうすれば与えられ、あなたがたは喜びで満たされると。人にではなく、私に求めよと。あなたに応えることができるのは私なのだ。私があなたを造った。私があなたに命を与えた。いつでもあなたと一緒で、最後まであなたと一緒なのは、私なのだ！と。
　自分の主を知り、自分の父を知っている人はなんと幸いなことでしょうか。「あなたの父が、あなたに報いてくださる」からです。