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何を求めているのか

説教要旨(5月14日 朝礼拝より)
ヨハネによる福音書 1:35-42
牧師  星野江理香

 洗礼者ヨハネの「二人の弟子」が、前を行く主イエス・キリストを追いかけている。二人のうちの一人は、シモン・ペトロの兄弟アンデレ。もう一人は、通節によれば、この福音書を通じて匿名の「イエスの愛しておられた弟子」です。二人が主を追っていたのは、彼らの師である洗礼者ヨハネが、主イエスを「神の小羊」と紹介したからでした。
 イスラエルの民にとって「神の小羊」という言葉は、過越祭の「過越しの小羊」やエルサレム神殿でささげられる贖罪のための小羊を連想させました。従って、この二人は、主イエスが、イスラエルを救う贖いとなられる特別な御方であるといった認識は既に持っていたかも知れません。但し、この時点ではそれ以上のことは示されていないのです。
 そして、師であるヨハネの促しのままに主イエスの後を追いながら、どうしても声をかけられずにいた二人を主イエスは振り返られ、「何を求めているのか」とお尋ねになりました。
 ところが、せっかくの主の「何を求めているのか」という問いかけに彼らは逆質問しています。それは、現代人には違和感を呈するものであるに違いないけれど、当時のイスラエルの社会習慣からすると至極当然なことでした。交通機関や通信手段が未発達だった時代、高名な学者や宗教指導者が自分たちの町にやって来ると、その宿泊先を訪ねて一緒に泊まり込み、夜を徹して話を聴き教えを乞うことが、当たり前のように行われていたからです。そして、二人の逆質問に、主イエスはただ「来なさい。そうすれば分かる」と、宿泊先に彼らを連れて行かれました。二人が心の奥底で欲しているもの、彼らにとって最も必要なことを主は既にご存じだったのです。
 
 主イエスとの出会いを与えられる以前の私たちにも覚えのある人がいることでしょう。たとえば、物質的にも交友関係的にも充実していて日々は楽しく過ごせているが、いつも心のどこかに虚しさがつきまとっていた…というような経験です。心の中に満たされない思いを抱えているのは確かなのに、それを埋めるために必要なものがわからないという状態です。霊的な飢えを抱えて、本当は主イエスそのものを求めているのですが、主を知らないので、虚しさや寄る辺無さがつきまとうことになるのです。
 もっとも、多くの人々はその虚しさから目をそらし、出世競争に勝つことや財産を為すこと、趣味に打ち込むこと等でその虚しさを埋めようとします。或いは、埋められたつもりになっていることでしょう。一方、その虚しさから目をそらさずに真剣に向き合うならば、洗礼者ヨハネを通じて「二人の弟子」が与えられたように、主イエスとの出会いが与えられるはずです。そして、主イエスが「二人の弟子」を振り返り「何を求めているのか」と語りかけてくださったように聖霊の御働きを通して語りかけ、お招きくださるのです。ふさわしい導き手やチャンスや、また時には厳しい試練や困窮等を通して、神様は私たちを、主イエスとの出会いと、主の救いの恵みへ招き入れてくださいます。そうして今、私たちは主の恵みのうちに置かれて、み国の約束の希望の中で生きているのです。
 
 こうして主イエスの最初の弟子の一人となったアンデレは、何を置いても兄シモンに自分の経験を語り聞かせ、主イエスに引き合わせました。アンデレは聖書に殆ど名前が登場しない弟子ですが、肉親だけでなく当時の社会で軽んじられていた子どもや異邦人をも酒隔てなく主のことに導いたことが聖書に示されています。そして、私たちにも同じ祝福が与えられています。
 声をかけられず逡巡していた弟子たちを振り返られ、温かなまなざしで「何を求めているのか」と親しく問いかけて下さった主イエス・キリストは、今も、道に迷い、逡巡し、神様の真実に向き合うことに臆病な私たちを、ご自分のもとへお招きになるのです。

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